十一面観音巡りの旅(4)春の大和路 [2013春奈良(室生寺・長谷寺・聖林寺他)]
さて、今日の3番目のお寺は桜井駅からタクシーで10分くらい。駅からバス(談山神社行き)もありますが、本数が限られています。小高い丘の上に建っていますが、坂道の下で降車。
☆聖林寺
↓境内に入ると小さな前庭とすぐに本堂。椿が綺麗に咲いてました。
十一面観音像としては一番有名な仏像のあるお寺です。小さなお寺で今日が日曜日だったので、高校生くらいのお寺の娘さん?が受付に座っていました。いかにもアルバイトといった感じで、お釣りは間違えられるし・・・この子にご朱印をいただくのもなんかな~と。やはり、墨衣のお坊さんのほうが有難味があって良いのにと思いました。↓字も下手(笑)
また肝心の十一面観音像もコンクリート造りの小さな収蔵庫に入れられていて、はなはだしく趣に欠けた環境でした。おまけに前面はガラス張り。 それなのに撮影は禁止でした。そんなこんなでやや落ち着きを欠いた仏像鑑賞になってしまいましたが、天平彫刻の名品とされる風格はさすがです。乾漆造の金箔の剥がれ具合、優美な手の仕草が美しさを引きたてています。白洲正子さんが「女躰でありながら、精神はあくまでも男である」とも評されたそのお顔は男女の区別などの次元を超えて、厳しくも、寛容の心を秘めた仏そのもののお顔でした。
また、白洲正子さんの『十一面観音像巡礼』では本堂に安置されていた観音さまに雨戸を開けたときに光が差し込んだときの情景が書かれています。「・・・それは今この世に生れ出たという感じに、ゆらめきながらあらわれたのであった。・・・この世にこんなに美しいものがあるのかと、私はただ茫然とみとれていた。」
収蔵庫に安置しなければならないのも理解できますし、観音様にはなんの罪もありませんが。。。
ロマネスクの彫刻、たとえば聖母子像が美術館に置かれているよりも、仏像がこういう状態に置かれているほうが、辛く感じるのは何故なのでしょう。
庭の離れにお休み処があり、抹茶と羊羹をいただき休憩。帰りは丘を下ってバスで桜井駅に行き、電車に乗り換え奈良に戻りました。雨は降りませんでしたが、日が落ちてきてぐんと寒くなってきました。
↓ 寺川沿いのバス停
これで、今日のスケジュールは終わり、夕食は町家風のレストランで。ここは偶然見つけたのですが、入口から路地を辿って、奥の玄関へ。予約なしでしたがOKでした。フランス料理のコースですが、〆はお寿司で、味もまずまず。静かなお座敷での和風フレンチ。ならまちの素敵な夕食でした。
これで今回の初十一面観音巡りは無事終了しました。次回は正倉院展に合わせて11月の予定です。
十一面観音巡りの旅(3)春の大和路 [2013春奈良(室生寺・長谷寺・聖林寺他)]
さて、長谷寺駅に着きました。
↓ 駅前に案内ゲートがあり、階段を下りて長谷寺まで2Kほど歩きました。駅で地図をいただけます。
電車でここへ来て、長谷寺に向かう人は他に居ない模様。少し時期がずれたとはいえ桜の咲くころですから・・・公共の交通を利用しての個人客がいかに少ないかですね。ひっそりした階段や坂道を辿り1Kほど歩きますと、門前町の狭い通りに古い立派な門構えの茶店を発見。門をくぐると庭園の向こうに縁側が見えました.
ここでお蕎麦(柿の葉寿司つき)の昼食をとりました。
午後からは雨はやみ、一時は晴れ間もありましたが、次第に厚い雲に覆われ、気温がぐっと下がってきました。 門前町から土産物店の並ぶ参道の坂道を上ると長谷寺の入り口です。
☆ 長谷寺
道明上人により686年に開山。初瀬詣、長谷信仰の根本道場とされる伽藍であり、一般には四季を通じて「花の寺」としても有名です。
↓長谷寺仁王門 桜が散って階段はピンクの彩。背後の山は初瀬山。
↓ 仁王門から本堂までは登楼を上っていきます。
初めは緩やかでしたが、次第にきつくなってきました。ヨーロッパのロマネスク教会よりも(ル・ピュイなどを除いて)、高地に建つ寺院が日本には多いようですね。
登楼の途中に宗宝蔵の小さな看板があり、春と秋には開扉される長谷寺に伝わる国宝・重要文化財等の宝物公開していました。カメラ禁止。さすが長谷寺、優れた彫の仏像やが並び圧巻でした。特に7世紀に鋳造された「銅板法華説相図」が展示されていて、照明は暗かったのですが、ガラス越しでなく目前で観ることができました。
↓ 銅板法華説相図(国宝 白鳳時代)
「地中より三重宝塔が湧出し、千仏が雲集して釈迦説法を賛嘆する法華経見宝塔品の場面をレリーフで表したものです。下段には319文字での造立願文を載せ、長谷寺の草創について語る唯一の遺品です。」とのこと。写真はNETから拝借。
登楼の階段399段を休み休み登りました。もう無理かな~と体力の限界近くに、ようやく本堂に到着。牡丹が登楼の両脇に咲き誇ることでも有名なお寺です。
↓ 登楼から
舞台造りの本堂の内陣には本尊の十一面観音立像が祀られています。入山料とは別に拝観料がかかります。ご利益(りやく)がありますようにといただいた、5色の網紐を腕にまき、高さ10Mの巨大な十一面観音様に参拝。室生寺に続いて2つ目のご朱印もゲット。
長谷寺の十一面観音像は「長谷式」と呼ばれ、右手に錫杖、左手に水瓶を持って方形の大盤石という台座に立っています。仏さまの周りをぐるりと回れるようになっていましたが、巨大な威厳のあるお姿に、立って歩くのが恐れ多いような感じでした。50代くらいの男性がお経を唱えながらお参りしていました。お経はおろか寺院での作法も良く知らない私はやはり日本人としては勉強不足ですね(汗)。
広い境内を散りゆく桜を愛でながら歩き回りました。
長谷駅までは入山受付で教えてもらったTAXIに電話して、戻りました。15分ほど時間があり、ホームの待合室で調べてきた資料をチェックしていましたら、長谷寺のお花見がえりのシニアのご夫婦に声をかけられ、北海道から来たことなどを話し、大和十一面観音巡りのご朱印帳をお見せしたら、地元の私たちも知らないわとびっくりされていました。 このご朱印帳には写真も添えられています。年々記憶力が衰える身にはとても助かります。
そして、この日の最後は美仏のおわす聖林寺へ。
十一面観音巡りの旅(2)春の大和路 [2013春奈良(室生寺・長谷寺・聖林寺他)]
☆室生寺
この日はあいにくの雨模様のうえ気温も低く(12度くらい)、終日寒い日でした。実質、
十一面観音巡りはこの日から始まりました。
JR奈良~桜井(近鉄乗換)~室生口大野(バス乗換)~室生寺へ。時刻表はネットですべて検索済みでしたので、
乗り換えもスムーズに山深くの室生寺に着きました。バス停から2~300Mで室生川にかかる橋の袂です。手前には土門拳が撮影のため逗留したことで知られている橋本屋旅館。
↓「女人高野室生寺」の山門。ここからは直進せずに右手の道を辿ります。
↓ 山の斜面を活かした境内ですから、階段が・・・日本のお寺のほうがキツイかも。
↓正面に 「金堂」(国宝)が見えます。ここに「十一面観音立像」が秘仏公開されていました。
金堂の内陣には釈迦如来像(平安時代・国宝)などが並び、一番左側に控えめに立つのが少女のような初々しく優しい面差しの十一面観音像(平安前期)。雨の日の暗いお堂の中にぽっかりと光が当たってるような薄手の彩色が極めて美しい。光背の唐草文様の色彩も同じく洗練されています。一本の木から削りだされたというそのお姿は深い森の山寺に現れた神秘な存在ともいえるでしょう。カメラは禁止。
灌頂堂(国宝)でお参りのあと記帳所で、大和十一面観音巡礼の御朱印をいただきました。
。
↓ 五重塔(国宝)と傍らに居並ぶお地蔵さんたち。雨が激しくなって手提げバックもべちゃべちゃ。あまり良い写真が撮れなくて。。。一眼レフも持たないで来たのは正解でした。
太鼓橋まで戻り、橋本屋の食堂でしょうがの効いた温かい甘酒をいただいて、ひと休み。またバスに乗って室生口大野駅の一つ手前の大野寺で降車。雨も止み青空が広がってきました。
日曜日なので、かなりの見物客で混雑していました。大野寺の枝垂桜は満開でしたが、午前中の雨が花びらをぐっしょり濡らして、重々しかったのが惜しまれました。
☆大野寺 境内に2本の枝垂桜の巨木があります。
↓ 大野寺の境内から川向こうに弥勒磨崖仏が見えました。線刻はかなり摩耗していています。
↓ 歩いて数分で室生口大野駅に戻り 、まもなくやってきた電車で長谷寺へ。
十一面観音巡りの旅(1)春の大和路 [2013春奈良(室生寺・長谷寺・聖林寺他)]
テーマを決めて旅をする愉しさにはまってから、オペラやロマネスク美術のためヨーロッパに行くことが多かったのです。しかし、70歳を超えるといろいろな制約もでてきました。近場でさえ、年々難しくなるのでは・・・と、元気なうちにと、かねてからの念願だった仏像に会いに行く旅を計画。昨年は春と秋に奈良方面に行ってきました。
↓白洲正子さんの「十一面観音巡礼」(新潮社)を書店で手に取り、購入したのは10年以上も前でした。表紙は聖林寺の十一面観音立像です。
いつかはこういう旅をしてみたいと願っていましたから、古希を迎えるに当たって、ようやく実現しました。もちろん何度かに分けて行くことになりますし、十一面観音像だけでなく、他の仏像にもお参りすることになります。ただ、私自身は仏教徒ではありませんし、無宗教のいうなれば自由な立場です。仏像に手を合わせ、参拝する行為は宗教的な空間を尊重し、讃美と感謝の気持からのものです。美と旅に生きた白洲正子さんの足元にも及びませんが、彼女を先達としてこれからの旅を心新たに進もうと思います。。。。と、前置きが少々固くなりましたが、実際はいつものお気楽な旅日記で、グルメの話題なども入ります。
↓ 廻るコースは「大和路秀麗八十八面観音巡礼」を参考にしました。
http://www.kairyuouji.jp/kannon.html
例年より厳しい寒さと豪雪に見舞われた札幌。まだ春の訪れには遠い日でしたが、まずは東京へ飛び春の旅が始まりました。2泊して、新歌舞伎座の杮落しの公演やオペラ「ニュルンベルグのマイスタージンガー」(演奏会形式)を楽しんだ後、新幹線で奈良へ。奈良は山の辺の道やお水取りなど、十数年前年に何度か来たことがありました。本当に久しぶり~(わくわく)。
この日は前日から猛烈な低気圧が予想されていました。しかし、朝の東京は時々小雨程度で風もなく穏やかでした。心配だった新幹線も時刻通りに出発して、京都で近鉄線に乗り換え、無事奈良に到着。奈良は中程度の雨模様でした。 荷物を駅のコインロッカーに預け、電車で「学園前駅」から徒歩10分くらいの大和文華館へ。
★大和文華館 http://www.kintetsu.jp/yamato/
チケット売り場のある入口から、緩やかな坂を上りますと、白壁となまこ壁を組み合わせた、一見すると蔵のような建物が見えました。路傍に咲く山吹が暗い雨の日にひときわ美しい。
特別企画展は「人物画名品展」
ここの学芸員でしょうか、ユーモアを交えてのガイドはなかなか面白く、ずーっとではありませんが、時々聞かせていただきました。
ここでの目玉は「婦女遊楽図屏風」(国宝)です。「松浦屏風」ともいわれ六曲一双の江戸前期のもの。解説には著名な画家の作ではなく市井の無名の画工の描いたもので、絵画というよりも流行衣装の陳列といった雰囲気とあります。
それでも等身大の女性(遊女)たち美しいきものを着て生き生きと遊ぶ姿は綺麗です。長い髪のフェミニンなタイプとポニーテールの着流し風ハンサムウーマンタイプ。着物の柄や色など、江戸の着物文化からの美しい伝統を懐かしく、惜しむ気持ちで鑑賞しました。
↓ 「婦女遊楽図屏風」(部分)絵葉書
展示室は1室だけですから、じっくり鑑賞しても1時間くらいで終了。残念だったのは伊藤若冲の「釣瓶に鶏図」が貸し出し中?展示されていなかったことでした。
近鉄奈良駅に戻り、荷物を出して宿泊先近くのJR奈良駅へ。 駅に隣接する「ホテルロハスJR奈良駅前」に2泊しました。
部屋は簡素そのものですが、抜群の立地で1泊6.500円。温泉大浴場あり。 外国人のツーリストも多かったです。
夕食は奈良通の友人紹介の「かこむら」で。友人とここの店主さんとはミッシュランの星をとる前からのお付き合いがあり、独りでも気持ち良くお食事ができました。デザートまで10皿のコース、好物の蛍烏賊の石焼が特に◎でした。
奈良の銘酒もいただいて、ほろ酔い気分。雨も上がった奈良の町をのんびり歩いて宿に戻り、温泉に入って就寝。